一人親方の3割特例とは?対象者や適用期間、消費税の計算方法を解説
インボイス制度への対応で課税事業者となった一人親方にとって、消費税の負担は気になるポイントです。
これまで免税事業者だった個人事業主がインボイス発行事業者になると、原則として消費税の申告・納税が必要になります。手取りが大きく減ってしまいます。
そこで設けられているのが「3割特例」です。
3割特例を利用すると、一定の条件を満たす個人事業主は、令和9年分(2027年分)と令和10年分(2028年分)の消費税について、納付税額を売上にかかる消費税額の3割とすることができます。
この記事では、一人親方が消費税の3割特例を利用できる条件や適用期間、具体的な計算方法、原則課税・簡易課税との違い、3割特例終了後の対応まで詳しく解説します。
一人親方の3割特例とは?
今回の主題である「3割特例」について詳しく解説していきます。ぜひ参考にしてください。
3割特例は消費税の負担を軽減する制度
3割特例とは、インボイス制度への対応によって免税事業者から課税事業者となった小規模な個人事業者(一人親方含む)を対象とした消費税の負担軽減措置です。
通常、課税事業者は、売上にかかる消費税額から仕入れにかかった消費税額を控除して、納付する消費税額を計算します。
一方、3割特例を利用できる場合には、一定の計算によって求めた売上にかかる消費税額の3割を納付税額とすることができます。通常の消費税計算よりも納税額が減り、手取りが増えます。
実際の仕入れや経費にかかった消費税を一つひとつ集計して仕入税額控除を計算しなくても、特例によって納付税額を簡便に計算できる点が大きな特徴です。
3割特例を適用するためには一定の条件があるので、解説します。
インボイス制度によって課税事業者になった一人親方が対象
3割特例は、すべての課税事業者が利用できる制度ではありません。
基本的には、新しくインボイス制度を機に免税事業者から課税事業者となり、適格請求書発行事業者の登録を受けた個人事業者が対象です。
そのため、これまで消費税の納税義務がなかった一人親方が、取引先からインボイス登録を求められたことなどをきっかけに登録した場合には、3割特例の対象となる可能性があります。
ただし、単に「一人親方だから利用できる」という制度ではないため注意しましょう。
納付する消費税額を売上にかかる消費税額の3割にできる
3割特例のポイントは、「消費税率が3割になる」という意味ではありません。
消費税率は原則として10%など、取引の内容に応じた税率が適用されます。
3割特例は、その課税期間における売上にかかる消費税額を基準として、納付する消費税額をその3割とする制度です。
例えば、売上にかかる消費税額が50万円だった場合、3割特例を適用すると、納付税額は原則として15万円となります。
「売上の3%を納税する制度」と考えるのではなく、「売上にかかる消費税額の30%を納付すればよい制度」と理解しておくことが重要です。
500万円税率10%で売れたら、500万円×10%(消費税率)×30%(3割特定)=15万円が納税額です。
一人親方が3割特例を利用できる条件
3割特例を適用するための諸条件について解説します。
課税売上1,000万円以下でこれまでなら免税事業者だった個人事業主
3割特例を利用するための重要な条件の一つが、基準期間の課税売上高です。
国税庁によると、3割特例は、個人事業者である適格請求書発行事業者について、適用を受ける年の2年前にあたる基準期間の課税売上高が1,000万円以下である場合などに利用できます。
個人事業主の場合、基準期間は原則として2年前の1年間です。
例えば、令和9年分(2027年分)について3割特例を利用する場合、基準期間は令和7年(2025年)です。
令和10年分(2028年分)については、基準期間は令和8年(2026年)となります。
したがって、現在の売上だけを見て3割特例の対象かどうかを判断するのではなく、対象となる年の2年前の課税売上高を確認する必要があります。
インボイス発行事業者の登録によって課税事業者になったこと
3割特例は、インボイス制度への対応によって免税事業者から課税事業者となった個人事業者を念頭に置いた制度です。
例えば、これまで課税売上高が1,000万円以下で消費税の納税義務がなかった一人親方が、元請会社などからインボイス登録を求められ、適格請求書発行事業者の登録を受けたケースが考えられます。
このような場合、インボイス登録によって課税事業者となるため、消費税の申告・納税が必要になります。
3割特例は、こうした小規模な個人事業者の負担を軽減するための制度です。
免税事業者から課税事業者になった個人事業主の一人親方が対象
3割特例では、「個人事業主であること」も重要です。
令和8年度税制改正によって設けられた3割特例は、法人ではなく個人事業主を対象としています。
そのため、個人で建設業などを営む一人親方は制度の対象となり得ますが、法人化している事業者には3割特例は適用されません。
また、インボイス制度とは関係なく、もともと課税事業者だった場合など、3割特例の趣旨に該当しないケースでは利用できないことがあります。
3割特例の対象となる課税期間を確認する
3割特例を利用できるのは、原則として令和9年分(2027年分)と令和10年分(2028年分)です。
例えば、2027年に3割特例の条件を満たしている場合は、2027年分の消費税申告について利用できます。
また、2028年についても条件を満たせば利用できます。
ただし、毎年必ず利用できるわけではありません。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、要件を満たさない課税期間については3割特例を利用できません。
3割特例はいつまで利用できる?
3割特例はインボイス制度導入によって課税事業者が増え、手取りが減る個人事業主への激変緩和措置、移行措置になり期間限定です。
2027年分・2028年分が対象
3割特例の対象となるのは、個人事業者の令和9年分および令和10年分の消費税です。
西暦では2027年分と2028年分にあたります。
個人事業主の場合、通常の課税期間は1月1日から12月31日までなので、一人親方の場合も基本的にはこの期間で考えることになります。
2026年10月から始まる制度ではない
3割特例については、「2026年10月から始まる」と誤解しないよう注意が必要です。
2026年10月は、インボイス制度における免税事業者からの仕入れについて、仕入税額控除の経過措置が80%から70%に変わる時期です。
一方、3割特例は2027年分・2028年分の消費税について適用される制度です。
つまり、「2026年10月から3割特例が始まる」という意味ではありません。
3割特例の適用期間終了後はどうなる?
3割特例は恒久的な制度ではありません。
令和10年分の消費税申告まで3割特例を利用した後は、原則として通常の消費税の計算方法に移行することになります。ただし、「5割特例」など新たに設けることは政治の判断で行われる可能性はあります。
具体的には、3割特例後は、原則課税または簡易課税などによって納付税額を計算することになります。
そのため、3割特例を利用できる期間だけを見るのではなく、2029年以降の消費税負担についても早めに考えておくことが大切です。
一人親方の3割特例の計算方法
3割特例で納税する消費税の計算方法を紹介します。
売上にかかる消費税額を確認する
3割特例では、まず課税売上にかかる消費税額を計算します。
例えば、税抜きの課税売上が500万円で、そのすべてに10%の消費税がかかるとします。
この場合、売上にかかる消費税額は50万円です。
ただし、実際の申告では課税標準額や売上に係る対価の返還等の状況などを踏まえて計算するため、「年間売上に単純に10%を掛ければ必ず売上税額になる」と考えないようにしましょう。
納付税額は売上にかかる消費税額の3割
3割特例を利用できる場合、売上にかかる消費税額の3割を納付税額とすることができます。
例えば、売上にかかる消費税額が50万円だった場合は、次のように計算します。
50万円 × 30% = 15万円
この場合、3割特例による納付税額は15万円となります。
同様に、売上にかかる消費税額が80万円なら、
80万円 × 30% = 24万円
となります。
ここで重要なのは、3割特例では実際に支払った材料費や外注費、工具代などの仕入税額を一つひとつ差し引いて30%を計算するわけではないことです。
原則課税では売上税額から仕入税額控除を行いますが、3割特例では特例によって納付税額を売上税額の3割とする仕組みになっています。仕入(経費)を考慮せず「売上の10%の3割」という計算です。
一人親方が3割特例を利用するときのチェックポイント
一人親方が3割特例を利用する際にはあくまで「特例」であり、チェックすることがいくつかあります。
適用対象になるか事前に確認する
3割特例を利用する前に、次のような点を確認しましょう。
- 自分が個人事業者に該当するか
- 適格請求書発行事業者の登録をしているか
- インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者となったか
- 基準期間の課税売上高が1,000万円以下か
- 対象となる課税期間に該当しているか
特に基準期間の課税売上高は、「現在の売上」ではなく、適用する年の2年前の売上を確認する点に注意してください。
消費税の申告・納税期限を守る
3割特例を利用する場合でも、消費税の確定申告そのものが不要になるわけではありません。
一人親方が個人事業主として消費税の申告をする場合は、原則として課税期間終了後に確定申告と納税を行います。
特例を利用できるからといって、申告期限を過ぎてもよいわけではないため注意しましょう。
3割特例終了後の消費税負担に備える
3割特例を利用している間は、通常の計算方法と比べて消費税の納税額を抑えられる可能性があります。
しかし、3割特例は令和9年分・令和10年分に限られた経過措置です。
その後は通常の計算方法に移行するため、3割特例の期間中から、原則課税と簡易課税のどちらが自分の事業に合っているかを確認しておくことが大切です。手取りが大きく減る可能性もあります。
特に建設業の一人親方は、材料費や外注費などの仕入れが多いケースもあるため、実際の取引状況を踏まえて検討する必要があります。
一人親方の3割特例に関するよくある質問
一人親方の3割特例利用について、いくつかQ&Aでまとめました。
一人親方なら誰でも3割特例を利用できますか?
いいえ。すべての一人親方が利用できるわけではありません。
3割特例は、個人事業者である適格請求書発行事業者について、上に書いたような一定の条件を満たす場合に利用できる制度です。
基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合など、対象外となる課税期間があります。
また、法人には3割特例は適用されません。
3割特例は2026年10月から始まりますか?
いいえ。
3割特例は、個人事業者の令和9年分(2027年分)および令和10年分(2028年分)の消費税について設けられた制度です。
2026年10月は、インボイス制度における免税事業者からの仕入れに関する仕入税額控除の経過措置が80%から70%に変更される時期です。
3割特例の開始時期と混同しないようにしましょう。
3割特例では消費税を3割しか払わなくていいのですか?
正確には、「消費税を3割しか払わない」という意味ではありません。
3割特例では、その課税期間の売上にかかる消費税額を基準として、納付税額をその3割とすることができます。
例えば、売上にかかる消費税額が50万円の場合、3割特例による納付税額は15万円です。
したがって、売上そのものの3割を納税する制度ではありません。
3割特例と簡易課税はどちらを選べばいいですか?
一概にはいえません。
3割特例では売上にかかる消費税額の3割を納付税額とするのに対し、簡易課税では事業区分ごとのみなし仕入率を使って納付税額を計算します。
そのため、売上高だけではなく、事業の種類や仕入れ・外注費などの状況を踏まえて比較する必要があります。
簡易課税の場合、多くの建設業は基本30%納税なので、3割特例とほぼ同じです。しかし、元請けから材料がすべて無償支給される「手間請け」や「とび・解体工事」の場合、40%納税なので、これらを行っている一人親方は3割特例の方が特になります。
また、3割特例は令和9年分・令和10年分の経過措置であるため、その後の計算方法も含めて検討することが重要です。
申告にかかわる事務負担も各自異なるので、簡易課税と3割特例がまったく同じだけの負担ではないのです。
3割特例が終わったらどうなりますか?
3割特例の対象期間が終了した後は、原則として原則課税や簡易課税など、通常の消費税の計算方法によって納税額を計算します。政治判断で期間が延びる、あるいは「4割特例」などになる可能性はありますが、現在はスケジュール通りと考えてください。
3割特例を利用した事業者については、翌課税期間から簡易課税制度を適用するための届出について、一定の特例があります。
3割特例の終了後にどの方法を利用するのが適切か、早めに確認しておくと安心です。
一人親方の3割特例について税理士に相談したほうがよいケース
3割特例はあくまで「特例」なので税理士に相談した方がよい場合があります。
自分が3割特例の対象になるか分からない
3割特例は、インボイス登録の状況や基準期間の課税売上高など、複数の条件を確認する必要があります。
「一人親方だから対象」と判断せず、自分の過去の売上や課税事業者になった経緯を確認しましょう。
3割特例を利用した場合の納税額を知りたい
3割特例を利用すると納税額を簡便に計算できますが、実際の申告では売上に係る消費税額などを正確に計算する必要があります。
売上に複数の税率が含まれている場合や、返品・値引きなどがある場合には、単純な売上高だけでは計算できないことがあります。
3割特例終了後の消費税負担を確認したい
3割特例は一時的な経過措置です。
2029年以降も課税事業者として事業を続ける場合には、原則課税や簡易課税などによって消費税を申告することになります。
3割特例を利用できるうちに、終了後の納税額を試算しておくと、資金繰りを考えるうえでも役立ちます。
原則課税や簡易課税との違いを比較したい
一人親方の場合、材料費や外注費などの金額によって、原則課税と簡易課税のどちらが適しているかが変わる可能性があります。
3割特例の期間だけを見るのではなく、その後の事業計画や売上、仕入れの状況まで含めて消費税の計算方法を検討したい場合は、税理士への相談をおすすめします。
【まとめ】一人親方は3割特例の対象と適用期間を確認しよう
一人親方の3割特例は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者となった小規模な個人事業者の消費税負担を軽減するための経過措置です。
一定の条件を満たす場合、令和9年分(2027年分)と令和10年分(2028年分)の消費税について、納付税額を売上にかかる消費税額の3割とすることができます。
ただし、3割特例は2026年10月から始まる制度ではありません。また、すべての一人親方が利用できるわけではなく、基準期間の課税売上高やインボイス登録の状況などを確認する必要があります。
さらに、3割特例は恒久的な制度ではないため、適用期間終了後の消費税についても考えておくことが重要です。
一人親方でインボイス登録をしている場合は、自分が3割特例の対象となるかを確認するとともに、原則課税や簡易課税を利用した場合の納税額も比較しておきましょう。
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