事業承継をしたい方必見!基礎知識と失敗しないための方法を解説
企業経営者にとって、自社の将来を左右する重要な経営課題の一つが「事業承継」です。長年にわたって培ってきた技術やノウハウ、従業員、取引先との信頼関係を次世代へと引き継ぐことは、単なる経営権の移譲以上の意味を持ちます。本記事では、事業承継の基本から成功のポイントまで、包括的に解説します。
事業承継とは?
事業承継とは会社の経営権や経営資源を現在の経営者から後継者へと引き継ぐことです。
中小企業庁では「企業の熱い想いや技術を次の世代へつなぐこと」と定義しています。
株式や資産を譲渡するだけでなく、経営理念や企業文化、取引先との関係性、従業員の雇用なども含めた総合的な承継プロセスを意味します。
事業承継で引き継がれる要素
事業承継で引き継がれる要素は以下の3つに分類されます。
- 経営権:会社の意思決定権や株式などの法的な支配権
- 経営資源:人材、技術、ノウハウ、ブランド、顧客基盤などの無形資産
- 物的資産:不動産、設備、在庫などの有形資産
事業承継の方法
事業承継の方法は、次の3つのパターンに分けられます。
- 親族内承継:経営者の子どもや親族に引き継ぐ伝統的な方法です。
- 親族外承継(社内承継):社内の役員や従業員など、親族以外の人材に承継する方法。近年増加傾向にあります。
- M&A:第三者への売却や合併により事業を引き継ぐ方法で、後継者不在の企業にとって有効な選択肢
事業承継が注目される背景と課題
事業承継の必要性は、日本経済全体に関わる深刻な課題となっています。
日本企業の99%以上を占める中小企業は、雇用の創出や技術の担い手として日本経済を支える重要な存在です。しかし、経営者の高齢化と後継者不足により、多くの企業が廃業の危機に直面しています。
東京商工リサーチの2025年調査では、全国企業の「後継者不在率」は62.60%に達し、前年から0.45ポイント上昇しました。
特に80代の経営者では不在率が上昇しており、早急な対応が求められています。
また、2025年版中小企業白書によると、2024年の休廃業・解散件数は約7万件に達し、そのうち半数が黒字企業の廃業という「黒字廃業」でした。
事業承継を行わないことによる影響は多岐にわたります。
まず、長年培ってきた技術やノウハウが失われ、産業の競争力低下につながります。
次に、従業員の雇用が失われ、地域経済に深刻な打撃を与えます。
さらに、取引先との関係が断絶し、サプライチェーン全体に影響が波及する可能性もあります。
一方、適切な事業承継を行うことで、企業には新たな成長の機会が生まれます。
後継者の新しい視点やアイデアにより事業が活性化し、M&Aによる承継では買収企業の経営資源やネットワークを活用した事業拡大も期待できます。
また、従業員のモチベーション向上や、取引先からの信頼維持にもつながります。
中小企業の事業承継は日本経済全体の持続可能性に直結する重要課題であり、個々の企業の問題を超えた社会的意義を持っているのです。
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事業承継を失敗しない方法
事業承継の失敗を防ぐためには、準備・分析・計画を段階的に進める必要があります。
事業承継の準備を入念に整える
事業承継には通常5年から10年程度の期間が必要とされます。
後継者の育成、関係者の理解獲得、財務・税務対策など、多くの準備が必要です。
経営者が60代前半には具体的な検討を始めることが推奨されます。
早期に着手することで、選択肢が広がり、より良い承継計画を立てることができます。
従業員や取引先、金融機関などのステークホルダーに対して、適切なタイミングで事業承継について説明し理解と協力を得ることも必要です。
特に従業員には安心して働いてもらえるよう、雇用の継続や処遇について明確に伝えましょう。
また適切な後継者を選ぶことは、事業承継の成否を左右する最も重要な要素です。
親族や社内人材、外部人材など、幅広い選択肢から検討します。
後継者候補が決まったら本人の意思を十分に確認し、時間をかけて経営に必要な知識やスキルを習得させます。
実務経験を積ませたり、社外研修に参加させたりすることで、段階的に経営者としての能力を養います。
事業課題を明確化し客観的に分析する
承継前の経営状況の「見える化」が成功の鍵とされています。
まず、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を最新の状態に保つ必要があります。
企業の財務状況の全体像を正確に把握・共有することは、後継者が経営の現状を理解することに繋がります。
自社の強み・弱みを整理し、業界内でのポジションや競争優位性、将来的な成長可能性を客観的に分析しましょう。
こうした分析を行うことで事業承継後の経営リスクを抑え、持続的な企業成長を実現しやすくなります。
事業承継計画書を策定する
事業承継計画書の策定も重要です。
事業承継計画書には、承継の実施時期や段階的なスケジュール、承継方法、必要となる資金計画や相続税・贈与税への税務対策を具体的に盛り込みます。
早期に計画を立て、文書化しておくことで、従業員や取引先の不安を軽減し、信頼関係を維持しながら円滑な承継を実現できます。
事業承継計画書は経営者や後継者だけでなく、役員や専門家とも共有して経営環境の変化に応じ定期的に見直すようにしましょう。
事業承継で押さえておきたいポイント
事業承継を円滑に進めるための判断基準や注意点を解説します。
後継者不足を解決するM&Aという選択肢
親族や社内に適切な後継者がいない場合、M&Aによる第三者への事業承継も視野に入れるとよいでしょう。
M&Aとは会社や事業を他社に譲渡することで経営を引き継ぐ手法で、経営者の引退後も事業を存続させることができます。
近年、後継者不在企業における事業承継手段としてM&Aの活用が拡大しつつあります。
M&Aによる事業承継では、会社売却によって創業者利益を確保できるだけでなく、従業員の雇用維持や取引先との関係継続が可能です。
また、買い手企業の資金力やノウハウ、販路を活用することで、事業の成長や競争力強化につながる点も大きなメリットといえるでしょう。
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専門家に相談し税務・法務対策を進める
事業承継に伴う相続税や贈与税の負担は大きな課題です。
事業承継税制などの制度を活用することで税負担を軽減できます。
また、株式の評価額を適正化するための対策や、後継者が経営権を確保できるような株式の集約なども計画的に進める必要があります。
事業承継は法務、税務、財務など多岐にわたる専門知識が必要です。
2024年版中小企業白書によると、事業承継の相談相手として最も多いのは「顧問税理士・公認会計士」(47.7%)となっています。
顧問税理士や公認会計士、弁護士などの専門家のサポートを受けることで、リスクを最小限に抑え円滑な承継を実現できます。
まとめ
事業承継は経営権の引き継ぎにとどまらず、技術や人材、取引先との信頼関係を次世代へつなぐ重要な経営課題です。後継者不足が深刻化する中、早期の準備や事業課題の可視化が承継成功の鍵となります。
特に税務や法務を含む対策は経営者自身だけで判断することが難しく、専門的な支援が不可欠です。将来の不安を解消し円滑な事業承継を実現するためにも、早めの行動が重要です。
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