固定資産の減価償却とは?対象資産と計算方法をわかりやすく解説
減価償却とは企業や個人事業主が長期間にわたって使用する資産の価値が、時間の経過や使用によって少しずつ減少していくことを会計上反映する仕組みです。
ただし、すべての資産が減価償却できるわけではありません。対象となる固定資産の種類を知ることで、正しい会計処理につながります。
減価償却できる固定資産は?
固定資産は購入年度に一括で経費にするのではなく、使用できる期間(耐用年数)に応じて毎年配分し費用として計上します。
ただし、すべての資産が減価償却できるわけではありません。
減価償却できる固定資産に該当するもの
減価償却できる固定資産には「有形固定資産」「無形固定資産」に分類されます。
【有形固定資産】
有形固定資産とは、形のある資産で1年以上事業で使用する資産のことです。
代表的な例としては、以下の通りです。
- 建物:事務所、店舗、工場など
- 構築物:舗装路面、門、塀、看板など
- 機械装置:各種製造設備、機械式駐車設備など
- 車両運搬具:営業車、トラック、大型特殊自動車など
- 工具器具備品:パソコン、机、椅子、理美容機器など
- 船舶・航空機:業務用の船舶や航空機
土地は一般的に時間の経過により価値が減少しないため、減価償却の対象外です。
しかし建物部分は経年劣化によって価値が減るため、減価償却の対象になります。
また10万円以上のパソコンやカメラといった備品は、固定資産に該当し耐用年数に応じて減価償却することが可能です。
【無形固定資産】
無形固定資産は、物理的な形はなくとも、事業に利用できる価値を持つ資産を指します。
例として以下の資産が該当します。
- ソフトウェア:業務用ソフトウェア、自社開発のシステムなど
- 特許権:発明に関する独占的な権利
- 商標権:商品やサービスの識別標識に関する権利
- 営業権(のれん):企業買収時に発生する超過収益力
- 電話加入権:固定電話の加入権利
なお借地権などは、その取得目的や内容によって減価償却の対象となるかどうかが異なります。
金額基準による区分
固定資産の減価償却の対象かどうかは、資産の取得価額によっても区分されます。
一般的に取得価額が10万円以上の資産は固定資産として扱われ、耐用年数に応じて減価償却を行います。
取得価額には、本体価格だけでなく、運送費、設置費、購入手数料なども含まれる点に注意しなくてはいけません。
10万円以上20万円未満の資産に関しては、「一括償却資産」として3年間で均等償却ができます。
30万円以上の固定資産は経費として処理できないため、減価償却しなくてはいけません。
また、青色申告の中小企業者等では、令和8年3月31日まで「少額減価償却資産の特例」を利用でき、10万円以上30万円未満まで一括で経費計上することも可能です。
固定資産の減価償却の仕組みについて
固定資産の減価償却は、資産が事業に貢献する期間に応じて費用として配分していくことで、より正確に収益と費用の対応を図ることができます。
なぜ固定資産の減価償却が必要なのか?
減価償却が必要な理由は大きく二つあります。
ひとつは「収益と費用の対応」という会計の基本原則を守るためです。
固定資産は複数年にわたり事業に貢献するため、その効果が続く期間に費用を分配することで、実態に即した利益計算が可能になります。
もうひとつは税務上の調整を適切に行うためです。
もし高額な固定資産を購入した年度に全額を経費化してしまうと、その年の利益は大きく減り、翌年度以降は増えるという不自然な形になります。
減価償却はこうした利益のブレを抑え、長期的に安定した経営判断を行う基礎となる重要な処理といえます。
固定資産の減価償却における耐用年数とは?
耐用年数とは固定資産が通常の使用を前提として、どれくらいの期間にわたり価値を維持し、事業に役立つと見込まれる年数を指します。
建物や機械、パソコンなど資産の種類によって耐用年数は細かく決められており、国税庁が公表する「耐用年数表」に基づいて算定します。
【主な資産の法定耐用年数の例】
- パソコン:4年
- 運送用大型乗用車(総排気量が3リットル以上のもの):5年
- 木造建物(店舗用):22年
- 鉄筋コンクリート造建物(事務所用):50年
耐用年数は減価償却費を計算する際の基礎となり、期間が長いほど1年あたりの償却費は少なく、短いほど多く計上される仕組みです。
経営計画を立てる際にも重要な指標となるため、事業者は自社の資産の耐用年数を把握し、適切に減価償却を行いましょう。
固定資産の減価償却は計算方法は?
固定資産の減価償却は、資産の取得費用を使用期間に応じて分割し、毎年の経費として計上します。
主な方法には「定額法」と「定率法」があり、資産の種類によって使い分けられます。
定額法
「定額法」は毎年同じ金額を減価償却費として計上する最もシンプルな方法です。
取得価額から残存価額(原則としてゼロ)を差し引き、その金額を耐用年数で均等に割ることで、1年間の減価償却費が算出されます。
【計算式】減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率
28万円のパソコンを購入した際の計算例:
-
- 取得価額 28万円、耐用年数4年の資産の場合
- 償却率:0.250(耐用年数4年の場合)
- 年間減価償却費:280,000円 × 0.250 = 70,000円
- 毎年7万円ずつ減価償却費を計上します。
「定額法」は会計処理がわかりやすく、資金計画が立てやすい計算方法です。
個人事業主の方は、原則として定額法が適用されます。
また、平成28年4月1日以降取得分の建物、建物附属設備、構築物、ソフトウェアは定額法で処理しなくてはいけません。
定率法
「定率法」は資産の取得価額に一定の償却率を掛けて毎年の減価償却費を計算する方法です。
初年度に大きな費用が計上され、年々減っていく特徴があります。
【計算式】減価償却費 = (取得価額 - 前年までの減価償却累計額) × 定率法の償却率
150万円の設備機器を購入した際の計算例:
- 取得価額150万円、耐用年数10年の資産の場合(平成24年4月1日以降取得)
- 1年目:1,500,000円 × 0.200 = 300,000円
- 2年目:(1,500,000円 - 300,000円) × 0.200 = 240,000円
- 3年目:(1,200,000円 - 240,000円) × 0.200 =192,000円 …
- 償却額が償却保証額を下回った場合は、改定償却率を使用します。
法人が平成19年4月1日以降に取得した固定資産は、建物を除いて原則として「定率法」で計算します。
ただし事前に届出を行えば「定額法」を選択することも可能です。
固定資産を減価償却する際の注意点
固定資産の減価償却には、取得時期や処分方法、耐用年数の設定など、誤ると会計処理や税務申告に影響するポイントがいくつかあります。
適切に処理し、トラブルを避けるための注意点を理解しておきましょう。
年度途中で取得した資産の処理
固定資産を年度途中で取得した場合、その年は「月割り」で減価償却費を計算します。
例えば4月に取得した資産であれば、会計年度末までの使用月数を基に減価償却費を算出します。
年間の償却費を12で割り、実際の利用月数を掛けることで月割計算が可能です。
この処理を誤って年間分をまるごと計上してしまうと、費用が過大になり税務調査で指摘を受ける可能性があります。
取得日を正確に記録し、月割り計算が必要な資産には注意が必要です。
減価償却途中の資産を処分する場合
資産をまだ減価償却している途中で売却・廃棄する場合は、未償却残高を正しく計算し、適切に処理しなければなりません。
売却した場合は、売却価額と未償却残高との差額が利益または損失として計上されます。
廃棄した場合でも、未償却残高を除却損として処理できます。
この際、帳簿価額の計算が間違っていると、利益や損失が正しく算出できず、決算に影響を及ぼします。
処分方法によって仕訳が異なるため、事前にルールを確認しておきましょう。
耐用年数の判定ミス
減価償却計算において耐用年数は正確に設定しなくてはいけません。
誤った耐用年数を設定すると減価償却費が過不足となり、税務調整が必要になる恐れがあります。
耐用年数は国税庁が定めた「耐用年数表」を基に判断することが基本です。
また、中古資産や用途変更した資産は特別な判定方法が適用されることがあり、より複雑になる点に注意が必要です。
迷った場合は税理士や専門家に確認し、適切な耐用年数で処理することで、税務リスクを低減できます。
消費税の取扱い
固定資産の取得価額に含める消費税の扱いも注意が必要です。
消費税を「税込経理方式」で処理している場合、取得価額に消費税を含めた金額を基に減価償却を計算します。
一方、「税抜経理方式」の場合は消費税を除いた金額が取得価額となります。
方式を誤ると減価償却費が正しく算定できず、決算や税務申告にズレが生じる原因となります。
事業者が採用している経理方式を確認し、取得価額の計上方法と減価償却計算を一致させることが大切です。
まとめ
減価償却の対象となる固定資産は、有形・無形の2種類に分類され、それぞれ条件や扱いが異なります。土地のように減価償却できない資産もあるため、資産ごとの特徴を正しく把握することが重要です。しかし判断が難しいケースも多いため、専門家のサポートを受けることで安心して対応できます。
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