暦年贈与にするなら贈与契約書は必要ない?注意点や作り方まで解説
暦年贈与は、毎年110万円までの非課税枠を活用しながら、計画的に財産を移転できる制度です。相続税対策として注目される一方、定期贈与とみなされない工夫や贈与契約書の作成が欠かせません。本記事では暦年贈与の仕組み、贈与契約書の必要性、契約書の作成手順から注意点までわかりやすく解説します。
暦年贈与の仕組み
まずは暦年贈与の基本知識を解説します。
暦年贈与の基本的な考え方
暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの間に贈与を行い、贈与額が年間110万円以下であれば贈与税が非課税となる仕組みです。
110万円を超えた部分から贈与税が課され、税率は10%から55%までの累進課税方式が採用されています。
贈与税の税率は、以下の一般贈与財産と特例贈与財産の2種類です。
・一般贈与財産:兄弟間の贈与、夫婦間の贈与、親から18歳未満の子への贈与など
・特例贈与財産:直系尊属にあたる父母や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与
【一般贈与財産の税率】
基礎控除後の課税価格 |
200万円以下 |
300万円以下 |
400万円以下 |
600万円以下 |
1,000万円以下 |
>1,500万円以下 |
3,000万円以下 |
3,000万円超 |
税率 |
10% |
15% |
20% |
30% |
40% |
45% |
50% |
55% |
【特例贈与財産の税率】
基礎控除後の課税価格 |
200万円以下 |
400万円以下 |
600万円以下 |
1,000万円以下 |
1,500万円以下 |
3,000万円以下 |
4,500万円以下 |
4,500万円超 |
税率 |
10% |
15% |
20% |
30% |
40% |
45% |
50% |
55% |
(引用:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税))
暦年贈与は、生前に財産を少しずつ移転でき、相続税対策にもつながります。
暦年贈与は毎年してもいいのか?
暦年贈与は便利な制度ですが、毎年同じ額を同じ条件で贈与すると定期贈与とみなされる恐れがあります。
例えば「10年間、毎年100万円を贈与する」といった場合、一括贈与と判断され税負担が大幅に増える可能性があります。
そのため、贈与契約書には毎回その都度の内容を明記し、日付や贈与額を機械的に固定せず、多少の変動を加える工夫が望まれます。
また、あえて110万円を少し超える額を贈与して少額の贈与税を支払う方法も、定期贈与のリスクを避ける有効な手段です。
関連記事:相続税の税務調査について解説!調査対象になりやすい家庭の特徴は?
暦年贈与は贈与契約書を作成した方がいい理由
暦年贈与のメリットを最大限に活かすには、贈与契約書を作成した方が良いとされています。次にその理由について解説します。
複数人に財産を残せる
暦年贈与には受贈者の人数に制限がありません。
そのため、子どもや孫だけでなく、その妻や夫など幅広く財産を移転できます。
例えば、子ども3人、孫5人、さらに子どもの妻3人へ暦年贈与を行えば、合計で年間1,000万円以上の資産を移すこともでき、それぞれ110万円までが非課税です。
つまり、贈与税の負担を抑えながら効率的に財産を分散できます。
ただ、贈与に関わる人数が多いと、相続人間での不公平感や認識の食い違いが発生してしまう懸念もあります。
そのため、贈与契約書を作成し、贈与の条件や金額、日付を明確に残しておくとよいでしょう。
新しい世代に財産を残せる
暦年贈与は、孫や子どもの配偶者といった相続人以外にも財産を残せます。
これらの贈与は相続時の「生前贈与加算」の対象外となるため、贈与者が比較的若いうちから取り組めば、長期にわたり非課税枠を活用できます。
例えば、贈与者が40歳から暦年贈与を始めれば、7年の加算期間を考慮しても、数十年にわたり大きな資産移転が可能です。
長年にわたり贈与をしていると、定期贈与とみなされる可能性もあります。
その都度、贈与契約書を残すことで、確実に贈与したという証拠になるため、将来的なトラブルを防止する効果があります。
税務調査対策になる
贈与契約書があれば、贈与の実態を客観的に示す資料としても活用可能です。
民法上、贈与は口約束でも成立します。
しかし、客観的な証拠が不十分な場合は税務調査のリスクも。
そのため、贈与契約書を作成することは法的には義務ではないものの、実務的にはとても重要です。
結果として、贈与契約書を作ることで財産の移転をスムーズにし、あげる人・もらう人双方の安心につながります。
贈与契約書に雛形はある?作り方のポイント
暦年贈与の際、贈与契約書に記載すべきポイントや作成方法について説明します。
贈与契約書の作り方|必須記載事項
贈与契約書には、法律的に統一されたひな形はありません。
もし、ご自身で贈与契約書を作成する際は、以下の5つの内容を盛り込みましょう。
- 贈与の実行日:贈与契約締結日・贈与履行日
- 贈与者(あげる人)の情報:氏名・住所
- 受贈者(もらう人)の情報:氏名・住所
- 贈与財産の詳細:種類・金額・数量など
- 贈与の方法:振込み・手渡しなど
関連する記事:贈与証明書と贈与契約書の違いを徹底解説|相続・税務で役立つ知識
贈与契約書の作り方|現金贈与の場合
現金贈与の契約書では、金額を「約100万円」と曖昧にせず、「金壱百萬円也」といった大字で正確に記載することをお勧めします。
贈与方法についても、現金手渡しでは証拠が残りにくいため、銀行振込を明記するのが安全です。
また、毎年同じ契約書を流用すると定期贈与とみなされる恐れがあるため、贈与の都度、個別の契約書を作成した方がよいとされています。
贈与契約書の作り方|不動産贈与の場合
不動産を暦年贈与する場合、現金贈与とは異なる以下の記載事項が必要です。
- 登記事項証明書に基づく正確な記載
- 200円の収入印紙の貼付
- 登録免許税や固定資産税の負担者の明記
- 所有権移転登記手続きの詳細
不動産贈与の収入印紙を怠ると過怠税が課される可能性があるため注意しましょう。
また、不動産は高額資産であるため、税務署のチェックも厳しく、誤りがあるとトラブルにつながりやすい分野です。
そのため、税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。
贈与契約書の作成には印鑑も必要
贈与契約書に押印する印鑑は、認印よりも実印を使用した方が信頼性が高まります。
さらに印鑑証明書を添付すれば一層の証明力を持ちます。
贈与契約書は形式的なものと思われがちですが、正しい印鑑の使用により、法的にも税務的にも安心です。
暦年贈与する際の注意点
暦年贈与で税務調査やトラブルを回避するためには、以下の点に注意しましょう。
生前贈与加算制度の改正点
2024年1月1日から、暦年贈与に関する生前贈与加算制度が大きく改正されました。
生前贈与加算とは、一定期間内に生前贈与した際に相続財産に加算され、相続税の課税対象となる制度です。
従来は相続開始前3年間に行われた贈与が生前贈与加算の対象でしたが、改正後は7年間に延長されています。
ただし、延長された4年間(4年目から7年目)に行われた贈与については、合計100万円までが非課税枠として扱われる特例が設けられています。
名義変更は早めに行う
暦年贈与を行う際には、贈与財産の名義変更を速やかに行うことが大切です。
特に銀行預金などの資産は、名義が贈与者のままでは贈与の実態を証明できず、税務署から名義預金として扱われる可能性があります。
例えば、子どもの口座に振り込んでも、通帳や印鑑を親が管理している場合は贈与と認められにくくなります。
契約書の作成とともに、財産の名義や管理権限を受贈者本人に移さなくてはいけません。
特に不動産の贈与では登記変更の手続きが必要となるため、専門家への依頼も検討しておくとよいでしょう。
未成年の子や孫に贈与する場合
暦年贈与の受贈者が未成年の場合、贈与契約書には親権者の同意と署名捺印が必要となります。
さらに、契約書だけでなく、受贈者名義の銀行口座や財産管理においても親権者の関与が求められるため、贈与の実態が不明確にならないよう注意が必要です。
贈与契約書を正しく作成し、必要に応じて印鑑証明書や戸籍謄本を添付しておくと、税務署からの確認にも対応しやすくなります。
暦年贈与に関するよくある質問(Q&A)
次に暦年贈与や贈与契約書に関するよくある質問をまとめました。
孫に贈与する場合は暦年贈与にした方がいい?
孫への贈与は相続税の生前贈与加算の対象外となるため、暦年贈与を活用すると効果的です。
早期に始めれば長期間にわたり非課税枠を利用でき、相続税の節税にもつながります。
さらに、贈与契約書を残すことで、贈与の事実を明確にし、将来のトラブルを防ぐことができます。
贈与税の基礎控除110万円はいつから廃止になる?
暦年贈与の基礎控除110万円は、2024年の制度改正後も当面は存続しています。
ただし、生前贈与加算の対象期間が3年から7年に延長されたため、単純に110万円以内で贈与を繰り返すだけでは十分な相続税対策にならない場合があります。
最新の税制動向を確認しながら、契約書を作成し計画的に進めることが大切です。
贈与契約書は自分で作成することはできる?
贈与契約書は自分で作成可能で、特別な資格は必要ありません。
贈与者と受贈者の情報、贈与財産の内容、日付、贈与方法を正確に記載しましょう。
ただし不動産や高額資産の贈与では記載内容が複雑になるため、専門家のチェックを受けると安心です。
まとめ
暦年贈与を正しく活用するには、非課税枠や税率の仕組みを理解し、贈与契約書を作成して記録を残すことが重要です。特に複数人や新しい世代への資産移転では、相続税対策やトラブル防止に大きな効果を発揮します。贈与契約書の作成は、専門家の助言を取り入れながら進めることで、安全かつ効率的な資産承継を実現できます。
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