管理会計と制度会計の違いとは?役割・メリット・デメリットを解説
企業経営に欠かせない「会計」の中には、管理会計と制度会計があります。管理会計は経営者の意思決定を支援する内部向けの会計であり、制度会計は株主や税務署など外部関係者に報告するための会計です。
本記事では、それぞれの基礎知識やメリット・デメリット、違いを分かりやすく解説します。経営の改善や会計知識の習得にぜひ役立ててください。
管理会計の基礎知識
管理会計とは、企業の経営者や管理者が経営判断を行う際に、必要な情報を提供する会計システムです。
英語では「Management Accounting」と呼ばれ、「マネジメントを支援する会計」として位置付けられています。
管理会計は、主に社内向けの内部報告会計として機能し、企業の課題を把握して適切な対策を講じるために活用されます。
また、管理会計の業務は、次の4つの要素で構成されます。
【管理会計の主な要素】
- 原価管理:製品やサービスの原価を正確に把握し、利益率を向上させる
- 予実管理:予算と実績を比較し、計画通りに進んでいるかを検証
- 資金繰り管理:入出金を把握し、資金不足を防ぐ
- 経営分析:収益性・安全性・成長性などを多角的に評価
管理会計を導入するメリット・デメリット
ここでは、管理会計のメリットと注意点を整理し、経営改善に役立てられるポイントを紹介します。
管理会計のメリット
管理会計を導入することで、経営判断を支援するための詳細かつ多角的な情報提供が可能になります。
業績の可視化
管理会計のメリットの一つは、企業の業績を数値として「見える化」できる点です。
経営者は、売上や利益を単純に確認するだけでなく、あらかじめ立てた予算や目標と実際の実績を比較することで、計画通りに進んでいるのかを判断できます。
これにより、経営の方向性を適切に修正することが可能となり、より迅速で合理的な意思決定につながります。
セグメント別の分析
管理会計では、部門別・製品別・地域別といった細分化された単位ごとに業績を分析できます。
財務会計が企業全体の数値を示すのに対し、管理会計は経営者が特に注視したい部分に焦点を当てることが可能です。
そのため、例えば「どの製品が利益率を押し上げているのか」「どの地域で売上が伸び悩んでいるのか」といった具体的な経営課題を明確にでき、戦略立案に直結します。
効果的なコスト管理
管理会計は、コストを細かく分析し効果的に管理する仕組みを提供します。
原価管理を通じて原材料費や人件費などの詳細を把握し、標準原価と実際原価を比較する差異分析によって改善点を特定できます。
さらに、キャッシュ・フロー計算書や資金繰り表を用いた分析により、短期的・長期的な資金の流れも見極められます。
これにより、企業は無駄を削減し、安定的かつ持続的な財務戦略を構築することが可能になります。
管理会計のデメリット
一方で、管理会計の導入には、コストやリスクも伴います。
コストと時間の負担増加
管理会計を導入する際には、データの収集や加工、分析といった追加業務が必要です。
そのため、経理担当者だけでなく、売上や在庫データを提供する営業や現場部門にも協力が求められるため、全社的な業務負担となる点は無視できません。
特に中小企業では、人員やリソースの制約が大きいため、管理会計の仕組みを維持するだけでも相応の労力がかかり、導入のハードルとなる場合があります。
精度の問題
管理会計は、正確な数値に基づいてこそ意思決定に役立ちます。
しかし、入力ミスや不適切なデータ処理があると、基礎情報の精度が低下し、誤った分析結果を導きかねません。
管理会計を有効に機能させるには、精度を担保する体制や仕組みづくりが欠かせないのです。
制度会計の基礎知識
制度会計とは、株主や銀行、税務署などの外部利害関係者に対して、企業の財政状態や経営成績を正確かつ公正に報告することを目的とした会計システムです。
制度会計では、法制度に基づく客観的な財務諸表を作成し、外部への情報開示を行います。
制度会計は以下の法律に基づいて実施されます。
- 会社法
- 金融商品取引法
- 法人税法
また、制度会計は、以下の「企業会計原則」というルールに従って作成します。
【企業会計原則】
- 真実性の原則:企業の財政状態や経営成績について真実を表示
- 正規の簿記の原則:公正妥当な簿記基準に従った正確な会計帳簿の作成
- 資本取引・損益取引区分の原則:資本の増減と企業活動による損益の明確な区分
- 明瞭性の原則:ステークホルダーが理解しやすい明確な表示
- 継続性の原則:会計処理方法や基準の継続的な適用
- 保守主義の原則:慎重で安全性を重視した会計処理
- 単一性の原則:利用目的にかかわらず統一された会計方針の適用
管理会計と制度会計の違い
最後に管理会計と制度会計の主な違いを説明します。
目的と対象の違い
制度会計
株主や投資家、債権者、税務当局といった外部ステークホルダーに対し、客観的で比較可能な財務情報を提供することを目的としています。
これにより、企業の信頼性を担保し、資金調達や税務処理に役立ちます。
管理会計
社内の経営者や管理職が迅速かつ合理的に意思決定するための情報を提供することが主眼です。
外部報告よりも内部の経営管理に特化し、柔軟な分析を可能にする点が特徴です。
法的規制の有無
制度会計
会社法や金融商品取引法、法人税法などに基づき、法的義務として実施されます。
帳簿の形式や決算期なども法律で定められており、厳格なルールに従う必要があります。
これにより、異なる企業間でも財務情報の比較が可能になります。
管理会計
法的規制がなく、各企業が目的や経営課題に応じて自由に設計できます。そのため、状況に合わせた柔軟な運用が可能です。
時間軸の違い
制度会計
決算書を通じて過去の業績や財務状況を明らかにする「過去志向」の会計です。
実績を正確に記録し、公正な評価を行うことで、企業の信頼性を担保します。
管理会計
「未来志向」の会計といわれ、現在のデータをもとに将来の戦略や意思決定を支援します。
予算管理や収益予測といった分析を通じて、経営者が将来に備えた判断を下すための重要な役割を担います。
情報の詳細さ
制度会計
企業全体の業績や財務状況を、一定のルールに基づいたフォーマットでまとめます。
外部向けに分かりやすく報告するため、統一性と客観性が重視されます。
管理会計
部門別・製品別・顧客別など細分化された単位での分析が可能です。
例えば「どの製品が利益率を押し上げているか」といった詳細情報を明らかにでき、経営改善に直結する実用性の高いデータを提供します。
まとめ
管理会計と制度会計は、目的や対象、法的規制の有無、情報の活用方法といった点で大きく異なります。管理会計は内部の経営改善に直結する柔軟な分析を可能にし、制度会計は外部に対する客観的な財務報告を担います。両者を正しく理解し、バランスよく活用することが、健全で持続的な企業経営につながります。自社の状況に応じて適切に使い分けることが重要です。
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