合同会社は相続対策になる?節税になる仕組みと注意点について解説
近年、相続対策として合同会社を設立するケースが注目されています。設立コストが低く、意思決定の柔軟さや節税効果など、多くのメリットがある合同会社。特に不動産や事業資産を保有する家庭では、将来の相続税対策として活用することで、税負担を軽減し、スムーズな資産承継が可能になります。
本記事では、合同会社のメリットから相続対策になる仕組みと注意点について、わかりやすく解説します。
合同会社とは
合同会社は、2006年の会社法改正により新たに創設された会社形態です。合同会社は、株式会社に比べると、設立コストが低く内部統制の自由度が高いことから、近年ではスタートアップ企業や小規模事業を中心に利用が広がっています。
特に相続を見越し資産管理を目的とした合同会社を設立するケースも増えてきています
比較項目 |
合同会社 |
株式会社 |
設立費用 |
約6万円 (登録免許税6万円+定款認証不要) |
約20万円 (登録免許税15万円+定款認証約5万円) |
維持コスト |
低い (公告義務なし、決算公告不要) |
高い (公告義務あり) |
意思決定 |
出資者=社員が直接経営 |
株主と取締役で構成される法人格 |
利益配分 |
出資比率にかかわらず 自由に設定可能 |
原則として出資比率に応じて分配 |
相続対策に合同会社を活用するメリット
合同会社は、以下のような理由で相続対策において有効とされています。
法人化による節税効果が期待できる
合同会社を設立することで、個人事業主と比較して以下のような節税効果が見込まれます。
- 法人税率の適用により、高所得者ほど税負担が軽減される可能性がある
- 役員報酬の計上により、所得分散が可能
- 経費として認められる範囲が広がる
ただし、必ずしも全てのケースで節税につながるとは限りません。所得の状況や経費の性質によっては、法人化により税負担が増える場合もあります。事前に専門家に相談することをおすすめします。
不動産の名義変更コストを抑えられる可能性がある
合同会社設立時に不動産を現物出資することで、個人間の売買による不動産移転と比べて、登録免許税や不動産取得税の軽減が可能です。また、不動産の名義を合同会社にしておけば、将来的な相続時には「社員(出資者)の変更登記」のみで承継できるため、不動産の移転登記に伴う費用を抑えることができます。
設立後に個人名義の不動産を合同会社に移転する場合は、通常の不動産売買と同様に税金や登記費用が発生します。コストを抑えるには、設立時の現物出資を検討するとよいでしょう。
設立費用が株式会社よりも安く、意思決定もスムーズ
合同会社は、コストを抑えて会社を設立したい方におすすめの会社形態です。合同会社は、株式会社と比べて次のようなメリットがあります。
- 設立時の登録免許税や定款認証費用が安い
- 役員の任期がなく、改選手続きなども不要なため、維持費用が抑えられる
- 出資者全員が業務執行権を持つため、出資と経営が一致し、迅速な意思決定が可能
小規模事業や家族経営との相性がよく、柔軟な運営ができる点も合同会社の大きな魅力です。
財産の分散が可能
合同会社を活用することで、所得や資産の分散も可能になります。
- 家族を役員に登用し、役員報酬を支払うことで、所得を分散できる
- 持分を毎年少しずつ家族に贈与することで、年間110万円の贈与税非課税枠を有効活用し、将来の相続財産を計画的に減らすことができる
これにより、一人に資産が集中するのを避け、相続時の税負担を軽減することが期待されます。
相続税評価額の引き下げが期待できる
合同会社の持分は非上場株式として評価され、「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」などによって算定されます。そのため、個人で不動産や株式を直接保有するよりも、相続税評価額が下がる可能性があります。
また、定款に「出資持分の相続に関する条項」を設けることで、持分の承継をスムーズに行うことができます。これにより、相続発生後も会社の運営に支障が出にくく、円滑な事業承継が可能となるため、結果として相続税対策にもつながります。
合同会社が相続対策になる仕組みとポイント
合同会社の活用が相続対策として機能するのは、持分の評価方法や税務処理の仕組みに起因しています。ここでは、その具体的な仕組みについて解説します。
合同会社における持分の評価方法
合同会社の持分は「非上場株式」と同様の評価方式が適用されます。主に以下の2つの方法を併用して評価されます。
- 類似業種比準方式:上場企業の財務指標と比較して算出
- 純資産価額方式:帳簿上の純資産(資産−負債)に基づく評価
実際には、この2つを加重平均した「併用方式」で評価することが多く、事業規模が小さい場合は、純資産価額方式が採用されやすい傾向にあります。
また、個人が直接保有する不動産などに比べ、合同会社の持分として間接的に保有する場合、相続税評価額が大幅に低くなる可能性があります。たとえば、賃貸物件を法人に移しておけば、持分評価の際にその収益性や市場流通性の低さが考慮され、評価額が圧縮されます。
持分の評価額を下げるためには?相続対策のポイント
合同会社の持分(出資持分)は、原則として非上場株式と同様の方法で評価されます。相続時の課税対象となる財産価値を抑えるためには、評価額を低くする工夫が必要です。以下のような手法が、実務上有効とされています
利益の内部留保を行い、配当を抑える
持分の評価では、会社の利益や配当実績が重視されます。配当を多く出している会社は、出資者にとって価値が高いと見なされ、評価額が上がる傾向にあります。そこで、利益を配当せず会社内に留保することで、将来の収益予想が抑えられ、持分評価額の引き下げにつながります。
借入金を活用し、純資産価額を引き下げる
合同会社の評価においては、「純資産価額方式」が用いられることがあります。これは、資産総額から負債を差し引いて算出する方式です。たとえば、不動産投資を目的とした借入を行えば、資産の増加と同時に負債も増加します。結果として純資産額が相対的に抑えられ、持分評価額も下がる可能性があります。
収益性の低い資産への入れ替え
「類似業種比準価額方式」では、会社の収益性(配当、利益、簿価など)が持分評価に大きく影響します。収益性の高い資産から低い資産に入れ替えることで、会社の利益率や成長性の指標が下がり、評価額の低下が期待されます。たとえば、高収益な事業資産を売却し、流動性の低い不動産に組み替えるなどの手法が挙げられます。
ただし、これらは節税目的が明白であると否認される可能性もあるため、専門家と相談のうえ慎重に進めましょう。
相続対策のために合同会社を設立する上での注意点
合同会社による相続対策には多くのメリットがありますが、一方で以下のようなリスクや注意点も存在します。
非上場株式扱いとなるため、形式的な設立ではリスクが高い
合同会社の持分は、原則として非上場株式として相続税評価の対象となります。しかし、税務上この評価が認められるためには、法人として実質的な活動を行っていなくてはいけません。たとえば、次のような点がポイントになります。
- 継続的な営業活動(不動産賃貸、事業収益の発生など)があるか
- 決算書や取引記録が整備されているか
- 実際の取締役や社員による経営判断がなされているか
単なる資産の名義移転や節税だけを目的としたペーパーカンパニー的な運用は、形式否認や実質課税の原則に基づいて否認されるリスクがあります。これは過去の税務調査でも頻繁に指摘されやすい傾向にあります。
相続発生後トラブルが生じてしまう可能性が高い
合同会社は「出資者=社員」という構成であるため、相続によって複数の相続人が持分を取得し、経営に関与することになると、意見の食い違いなどにより対立が生じやすくなります。
実際に、少数の持分者の反対によって意思決定が停滞したり、意図しない人物が経営に関与することで事業の継続性が損なわれるといったリスクも考えられます。
これらを防ぐには、定款の設計が極めて重要です。たとえば、持分譲渡の制限や業務執行権の付与条件などを定款に明記しておくことで、事前にトラブルを防止することができます。
また、後継者に持分を集中させるために、生前贈与や民事信託の活用を検討することも有効です。定款設計の際は、専門家に相談し実情に応じた運営設計を行いましょう。
「みなし配当」課税のリスク
合同会社の持分を相続に伴って解散・払戻しする場合、相続人が受け取る金銭が「みなし配当」として所得税の課税対象になることがあります。これは以下のようなケースで該当します。
- 相続人が会社を解散して現金化した
- 相続人が持分を他の社員に譲渡した場合の対価が高額だった
みなし配当は、法人が過去に積み上げてきた内部留保からの分配と見なされるため、所得税や住民税が課される可能性があります。特に内部留保が多い会社では注意が必要です。
相続時の評価額の不確実性
合同会社の持分評価は、「類似業種比準方式」や「純資産価額方式」などで行われますが、これらは資産構成や業績によって大きく変動します。保有する不動産の時価が変動しやすく、決算期ごとの利益変動で評価が上がる可能性があります。また、負債の有無が大きく影響します。つまり、相続のタイミング次第で評価額が想定よりも高くなるリスクがあります。定期的なバランスシートの見直しと、評価額のモニタリングが推奨されます。
まとめ|合同会社を活用した相続対策のポイント
合同会社は、少ない費用で設立でき、柔軟な経営と節税効果が期待できるため、相続対策に非常に有効です。不動産の名義移転コストの軽減や相続税評価額の引き下げ、資産の分散など、実務的なメリットも豊富にあります。ただし、形式的な会社運営ではリスクも伴うため、実態のある経営と専門家のサポートが必要です。
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